ブレイヴはリュートを片手に、部屋へと入った。
中ではすでに天と過が中央に座っていた。
「遅いぞ、何をしておったのだ?」
怒りを含ませた声に、にへらと笑いを返す。
「所用ですよ、所用。そんなに目くじら立てるほどのことではありません」
それよりも、と座りつつ、話題を変える。
「歯車は全員自分の住み慣れた地を離れました。ご希望通りでしょう?」
「どこが、だ」
天は床を強くこぶしで叩いた。大きな音が立つ。
「あやつらは本来の力をもっておらぬ。しかも一人として、だ!」
その言葉に、すでに着いていた過がうなずく。対して、ブレイヴはため息をついた。
「分かってますよ。GOUと叶子は幸いわざと残してきた過の痕跡から、彼を追っています。二人と対峙することで、その力を引き出すようにしてもらいましょう」
過が面白そうに笑った。
「やってやろうじゃないか。強い力の者と戦うのは、悪くない」
「しかしあとの二人はどうするのだ?」
「ご心配なく」
天が晶とワーチについて口を開いたのに、ブレイヴは笑みを返した。
「そちらの二人は僕が担当しますよ。大丈夫、対策は考えてあるんです」
その答えに、天は弱々しく笑顔を見せる。
「上手く行けばよいのじゃが……先だってのことがあってから、皆神経をとがらせておるのだ」
ぽん、と天の背中を叩いた。
「大丈夫です、前の二の舞にはなりません」
笑ったその顔が曇ったのはだれにも分からなかった。
「――前の二の舞にはね……」
天はひとり、水晶玉を見ていた。そこにはこの塔の周りの様子が映っている。代わり映えのしないその風景に、黒い点が見え、次いで人であることがしれた。
タンと音をたて、この塔に降り立ったのが分かる。振り向かずに、声をかけた。
「――何のようじゃ、プラム」
「あれ、冷たいなぁ。数少ない同胞なんだから、もう少し歓迎してくれてもいいのに」
プラムと呼ばれた少年は、赤の瞳と同じ色の髪をかきあげた。
「いいの、あれで? もう一度、試してみようって気にはならない?」
「ならぬ。おぬしの“言葉”にはもう頼らない」
ふぅん、とプラム。さも関係ないと言いたげな態度だ。
「――ひとつだけ言っておく」
何だと聞かず、目だけ動かす。彼はその瞳を真っ向から見つめた。
「このままじゃ……天、君は最後には一人になるよ」
←前へ 戻る 次へ→
Copyright(C) 2008 Wan Fujiwara. All rights reserved.